Dr. 徳田 安春
Dr. 徳田 安春
Dr. Yasuharu Tokuda
群星沖縄臨床研修センター臨床研修病院群プロジェクト
プロジェクトリーダー兼センター長
専門:総合診療
変化する医療ニーズ
医師に求められる役割も変化する
日本は、諸外国に例をみないスピードで高齢化が進んでいます。2015年に、75歳以上の後期高齢者は13.0%でしたが、2030年には19.1%、2050年には26.9%と現在の約2倍に増えると予測されています。当然、今後ますます高齢者の患者さんが増えていきます。すると何が起こるか? 複数の疾患がある患者さんの割合が増えるのです。
たとえば肺の病気だけでなく、心臓にも病気がある、肝臓や腎臓も弱い、さらに認知症も抱えているといった患者さんを診ることが当たり前になると予測されます。つまり、全身を診ることができる総合診療医のニーズが高まるということです。
この大きな変化に対応するために、専門医制度が大幅に変更されて、従来の基本診療領域に「総合診療専門医」が新たに加えられました。
高齢化による医療ニーズの変化に応えるには、今後、臓器ごとの専門医と総合診療専門医が協力して治療を進めていく必要があるのです。高齢化が進むのは患者さんだけではありません。高齢化と同時に進む少子化の影響もあり、医師はこれまで以上に長期間活躍することが求められるはずです。
そうは言っても、加齢とともに高度な技術が必要な医療を行うのは難しくなるでしょう。そうなると、問診やフィジカルアセスメントなどを中心とした総合診療医的な役割を果たすようになるのではないでしょうか。
重要なのは守備範囲を広げること
そのためには?
私は、総合診療医の目標は「イチロー型の医師」だと考えているんです。外野手であるイチローは、内野手よりも広いエリアを守っており、その上、イチローは普通の外野手よりも守備範囲が広い。それは、広げるための努力を続けてきたからでしょう。私は、イチローのような天才ではありませんが、総合診療医として、自分の守備範囲をほんの少しでも広げる努力を続けていきたいと思っています。
日本の医療の課題は、高齢化への対応だけではありません。地域医療をどう守るかも重要な課題です。そのためには医師数を増やすだけでなく、一人ひとりの医師が、少しでも守備範囲を広げることも重要です。研修医の段階でも「守備範囲を広げよう」という気持ちさえあれば、必要な知識やスキルを学べる機会やシステムがたくさんありますから、どんどん活用してほしいですね。
現在、医学生を対象に「闘魂外来」を月1回開催しています。診療参加型の臨床実習で、指導医の監修の下、外来患者さんの問診→診察→鑑別診断→アセスメント→プラン→患者さんへの説明という一連の流れを担当してもらうんです。「闘魂」と表現したのは、「どんな患者が来ても断らないという自分との闘い」を体験してもらうためです。
日々の診察や研修で「どんな患者が来ても断らない」の実現は難しいとしても、可能なレベルで「自分との闘い」を続けていけば、必ず守備範囲が広がっていくはずですから。
思わぬ人との出会いが
自分のキャリアを形づくってくれた
私は、1988年に琉球大学医学部を卒業後、沖縄県立中部病院で研修し、4年目にチーフレジデントになった頃には、腎臓内科を目指していたんです。
転機になったのは、身体所見で有名なJoseph Sapira先生を招き、病院内で行われた研修です。病歴と身体所見で診断する姿を目の当たりにして、「こういう医師になりたい」と思い、総合系の医師を目指すことにしました。
運良く1997年に総合内科の立ち上げが決まり、私はチームリーダーを任されました。新たな挑戦だったので、多くの困難に直面しましたが、それを乗り越えられたのは、複数の疾患をもつ患者さんの存在でした。たとえば心不全だけでなくCOPDや脳梗塞がある患者さんには、総合内科の方が良いケアができる。存在価値を実感できたからです。
第二の転機は黒川清先生との出会いです。先生から「総合内科の必要性は、海外にも発信する必要があるのでは?」と問われました。長年海外で活躍された先生の言葉を聞いて、発信力をつけるためにも海外で勉強したいと考えるようになったんです。
当時30代後半でしたが、1年間仕事の合間に勉強を続け、GRE(Graduate Record Examination)に合格。ハーバード大学公衆衛生大学院で臨床疫学を学びました。
日本に戻ってからは、仕事の場を沖縄から東京に移しました。ふり返ってみると、人との出会いが今の自分をつくっていると実感しますね。
チャレンジする心 平静の心
すべては患者さんのため
医学生や研修医の皆さんも、勉強したいテーマが見つかったら、チャレンジしてほしいですね。必要であれば、住む場所を変えてもよいと思います。そのとき、今までに受けた恩を返す気持ちが大切です。研修医が研修をできるのは、ご自身の体を提供してくれる患者さんがいるからなんですから。勉強が終わったら、短期間でも元の病院に戻って、お世話になった患者さんに恩返しをしてください。
それから、医学生や研修医の皆さんに読んでほしいのが『平静の心 オスラー博士講演集』(日野原重明訳・医学書院)です。本の冒頭に「内科医・外科医を問わず、医師にとって、沈着な姿勢、これに優る資質はありえない」と書かれています。「平静の心」から生まれる沈着な姿勢の重要性は、科学的にも証明されており、沈着な姿勢の医師は、誤診やエラーが少ないことがわかっているのです。臨床の現場で平静の心を保つには想像力が重要です。
たとえば、診察中に看護師さんを呼んでも来なかった場合、「ほかの患者さんの処置中かもしれない」と想像できる医師は、平静の心を保てます。ところが想像力がない医師は、怒ってしまうかもしれないのです。平静の心を保ち、守備範囲を広げる努力を続けるのは、患者さんに良い治療を提供するためであり、どんな場合でも患者さんの利益を第一に考えることが、医師のプロフェッショナリズムなのです。
Dr. 徳田 安春
Dr. Yasuharu Tokuda
1988年 琉球大学医学部卒。沖縄県立中部病院で臨床研修後、院内で総合診療科の立ち上げに関わる。その後、ハーバード大学公衆衛生大学院で臨床疫学修士修了。日本に戻って聖路加国際病院で働き、聖ルカ・ライフサイエンス研究所臨床疫学センターの副センター長に就任。2009年 国立大学初のプロジェクトである筑波大学附属水戸地域医療教育センター水戸協同病院の立ち上げに関わる。2014年 独立行政法人地域医療機能推進機構本部(JCHO)の本部顧問及びJCHO東京城東病院の顧問を務める。2017年4月 群星沖縄臨床研修センター臨床研修病院群プロジェクトプロジェクトリーダー兼センター長に就任
Dr. 徳田 安春のWhytlinkプロフィール
Whytlink Specialist Doctors Network
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