2016.09.24 公開

WhytRunner(ホワイトランナー) Specialist Doctors Interviews 輝き続ける専門医 Dr. 香坂 俊

WhytRunner(ホワイトランナー) Specialist Doctors Interviews 輝き続ける専門医

Dr. 香坂 俊

Dr.Shun Kohsaka

慶應義塾大学病院
循環器内科 特任講師

専門:循環器内科

   

診療と臨床研究の垣根は低く!最小限の力で最大限の効果を上げる。Dr. 香坂 俊

診療と臨床研究の垣根は低く!最小限の力で最大限の効果を上げるDr. 香坂 俊

患者さんにハンズオンで接しながら
寄り添っていけるところに魅力を感じた!

医学部に入学した頃は、臨床よりも基礎研究の方に興味がありました。そこが変わったのは、実習で患者さんと接するようになってからです。実験に使う細胞やタンパクは、あたりまえのことですが、決して語りかけてくれはしません。特殊な光を当て、その塩梅で実験が成功したかどうかがわかるとかそういう具合です。ところが患者さんが相手だと、質問すればすぐに答えが返ってくるので、「これをぜひやりましょう」とか「ここをなおしていきましょう」とアドバイスできる。さらに、自発的な行動ももちろんあるわけで、患者さんに病態を説明するだけで、「わかりました。たばこをやめます」などと返ってくる。自分が勉強してきたことが役に立っている感じで、歯車がピタッと合った感覚がありました。
そして6年生のとき、短期海外留学プログラムを利用してアメリカに行きました。それまで自分は理屈っぽい性格だと思っていましたが、アメリカではそれをはるかに越える先生ばかりで(笑)。「この薬を使った理由は◯◯だから」「いや、あの雑誌に出ていた研究によれば、こちらの薬の方がいい」と、朝からディベートな感じでした。ただその結果として、この薬はいらない、この処置はいらない、この入院はいらないと、不要なものがどんどんと削ぎ落とされていく。最小限の力で最大限の効果を上げることをゴールにしていると感じました。
当時の日本の医療は、まさに絨毯爆撃だったんですよ。使える薬は全部使い、使える処置は全部やる。学生なりに、無駄はあるけれども、それは人の命が係わる医療だから仕方がないのかなと思っていました。でもそのやり方は、患者さんだけでなく、医師も大変でした。次から次へと病棟に患者さんが入院してくるけれど、それが本当に必要なのかよくわからない。でもやるしかない。そんな状態でした。

「重力」が強いところで研修したのは、
判断力を磨きたかったから。

内科研修医になって、最初に循環器内科で研修をしました。やはり忙しかったです。ただその後で他の科を回ると、ペースが逆に遅いと感じました。例えば薬Aを5mg増やして、3日後に数値が上がったら、さらに5mg増やすというようなペースが自分には合わなかったのですね。どうも5mg増やしたら、15分後にはもうその結果を見たい。そういう性格のようです。もちろん、外科や集中治療もスピードがあるんですが、循環器ほどハンズオンではない。それに、いろいろな重症患者さんと向き合ううちに、循環器が軸にないと、患者さんが一番困っていることが解決できないのでは、と感じました。
その当時はやっていたマンガの『ドラゴンボール』のなかに、主人公が、力をつけるために重力が強い星(や場所)で修行するエピソードがしばしばでてきます(笑)。同じように、自分も循環器という「重力が強い科」で研修すれば、判断力を磨くことができて、将来どの科に進んでも対応できるようになるに違いないと、若いなりに思ったのでしょうね。
ただそうしたなかで研修医をしていた頃、研究だけをやらされるのは勘弁してほしいと思っていました。なぜ臨床だけをしていたらダメなのかというのは大きなジレンマでしたね。あとは少しでも早く、循環器内科医として一人前になりたい。これらの条件を考えると、選択肢として残ったのはアメリカの病院で研修するということだけでした。英語のディベートは苦手だったので「嫌だな」という気持ちもありましたが、そのときは仕方なく、消去法でアメリカ行きを決めました。

患者さんに説明する際に使用している心臓血管模型患者さんに説明する際に使用している心臓血管模型

「自分のゴールを決めるのがうまい」
それがアメリカで出会った医師の印象。

コロンビア大学で研修医をしていた頃、CCUの指導医だったJudith Hochman先生(現在ニューヨーク大学主任教授)が印象に残っています。とても厳しい女性の先生でしたが、臨床の判断の切れ味がいいだけでなく、強い執念で臨床研究も並行してされていました。で、ディスカッションになると、エビデンスの裏も表も全部知っている感じで、日本では出会ったことがないタイプの先生でしたね。
ヒューストンの心臓移植部門の指導医Frank Smart先生(現在ルイジアナ大学教授)も強く印象に残っています。アメリカでも心臓移植は週に1-2件程度しかありません。移植を待つ患者さんの誰に移植をするか?その決断力と考え方が素晴らしい先生でした。また循環器の中でも最重症の患者さんを診ているので、抜群に見切りが早かったですね。外科医の「手術をしたほうがいい」という意見に対して、「それは無駄なリスクだ」という感じでよく戦っていました。
この2人に限らず、アメリカは個性豊かな先生が多かったですね。みんな自分でゴールを決めるのがうまいというか…。そのせいか雑談の中で「お前は、何を目指すんだ?」とよく聞かれました。もちろん自分は臨床的な循環器内科医を目指していましたが、次第に研究をしなければならないなぁということも感じていました。研究をしないためにアメリカに来たのに、元の木阿弥になってしまったわけです(笑)。でもアメリカのMDがしている研究は、ほとんどが臨床研究だったというところは大きく違いました。データを集めて全体の傾向を把握して、その流れに乗っているかを確認するわけです。これなら臨床をしながら進められるし、臨床を補完できると思い直して、渡米2年目くらいから前向きに研究に取り組みました。 そのかいもあって、無事フェローになれましたし、専門性が高くなればなるほど研究が面白くなって、そのまま専修医(Fellow)の修了までいろいろな研究や解析を続けました。

日本に戻ってから行ったレジストリ研究(KiCS)のうち、最近医学雑誌に掲載された成果について説明を聞いた日本に戻ってから行ったレジストリ研究(KiCS)のうち、最近医学雑誌に掲載された成果について説明を聞いた

臨床の現場でも研究はできるし、
ベットサイドで考え続けることで
さらに臨床のレベルを高めていける!

日本に戻ってきて、まず病棟のチーフをすることになりました。当時は朝か夕方に指導医が集まって、毎日症例のディスカッションをしていたんですが、そこでよく「この方は今日退院でいいですよ」、「一気に最大量からこのクスリは使いましょう」といった発言をしていたので、よく「香坂先生の言うことは極論だな」と言われていました(笑)。
こんな調子で最初の半年ぐらいは、下の先生の言うことを全て論破していたんですね。ところが半年ぐらい経つと「日本のガイドラインではこうです」「日本には、こういうエビデンスがあります」という発言が出るようになって、おかげでディスカッションが深まっていったんです。次第に日米の違いが明らかになってきて、これは面白いなと。それを本にまとめたのが、『極論で語る循環器内科』です(丸善から販売、現在第二版)。自分もディスカッションを通して成長してきたので、それが日本で形になったことが嬉しかったですね。
また、日本でも臨床研究を行うために、アメリカのNCDR (National Cardiovascular Data Registry)と共同して6年ほどかけて約1万8千人のレジストリを構築しました。これはもともとKeio interhospital Cardiovascular Studies(KiCS)という大学と関連病院の先生方の組織があり、そちらの先生方の協力を得て作業を進めたものです。このデータを活用した研究から現在様々な成果が生まれています。
2012年から大学院で臨床研究のやり方を指導していますが、今後は臨床の現場で困っていることを解決する研究や、医療資源をどこに集中すればいいかを明らかする研究ができる医師を育てて、一緒に循環器の診療のあり方を考えていきたいですね。とりあえずは、臨床の現場でも研究はできて、ベットサイドで考え続けることで臨床のレベルも高められる。そのことを、実感してもらうことが自分のゴールだと考えています。その結果、少しでも無駄が減って、最小限の力で最大限の効果を上げられる医療に少しでも近づけばいいと思っています。

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Dr. 香坂 俊

Dr. Shun Kohsaka

1997年 慶應義塾大学医学部卒業。同年在横須賀米海軍病院・国立国際医療センター 研修医。1999年 Columbia大学 St. Luke’s-Roosevelt Hospital Center内科研修医・チーフレジデント。2005年 Baylor 大学 Texas Heart Institute循環器内科専修医・チーフフェロー。2006年 Columbia 大学 New York-Presbyterian Hospital Center 循環器内科スタッフ(臨床講師)。2008年 慶應義塾大学 循環器内科(現職)。2013年 国立循環器病研究センター(特任研究員[併任])。2014年 東京大学 大学院医学系研究科(特任准教授[併任])。取得資格:米国総合内科専門医、米国心臓超音波専門医、米国心臓核医学専門医、米国心臓移植内科専門医、米国循環器内科専門医。

Dr. 香坂 俊のWhytlinkプロフィール